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 2006.3.14 衆議院・厚生労働委員会 参考人意見陳述 メモ
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1,自己紹介

 東京都小金井市で市議会議員をしている漢人明子です。私自身、かつて児童扶養手当を受給し、大変助けられた時期がありました。また、議員となる前は保育園で働いていたこともあり、さまざまな母子家庭の現実にも接してきましたし、現在も、いくつかの母子家庭のネットワークに参加しています。本日は児童扶養手当の国庫負担率引き下げに対して母子家庭の当事者の立場から、そして三位一体改革に対して、自治体議員の立場からの意見を述べさせていただきます。

2,2006年度の三位一体改革について

 三位一体改革とは「地方の実情に応じた事業が自主的・自立的にできるように、地方への国の関与を廃止・縮減し、地方の権限と責任を大幅に拡大する」という地方分権を推進する観点で取り組まれたことになっていますが、実態は違いました。
 政府・与党からは当初から、生活保護、児童扶養手当の国庫負担の見直しがあげられてきました。しかし、これらは法定受託事務であり、自治体の裁量権などなく、単なる地方への負担転嫁でしかありません。全国市長会、全国知事会など、地方からは生活保護事務の国への返上も辞さないとの強い姿勢による猛反対があり、生活保護については見送られることになったわけです。
 ところが、児童扶養手当については対象として残ってしまいました。
 「4兆円規模の国庫補助負担金の廃止・縮減」という目標数値への数あわせに使われたとしかいいようがありません。
 現在、小金井市議会も第1回定例会の真最中で、明日からは予算特別委員会です。市財政課から提出された資料によると、この3年間の三位一体改革による補助金等の影響額としては、この児童扶養手当負担金が一昨年の保育所運営費負担金についで大きな金額になっています。
 今回見送られた生活保護は当然ながら、児童扶養手当についても、決して地方が求めたものではない、ということを申し上げておきます。

3,母子家庭・児童扶養手当の実態

 今回の見直しは母子家庭や児童扶養手当の果たしている役割の実態を無視している、あるいは知らずにすすめられたのではないかとさえ感じています。
 象徴的なのは、昨年12月7日の「第14回社会保障の在り方に関する懇談会」での川崎二郎厚生労働大臣の発言です。川崎大臣は、児童扶養手当と就業支援について「アメとムチがセットされた中での児童扶養手当をできるだけ、地方と協力し合いながらやってまいりたい」と発言されました。これに対しては発言撤回と謝罪を求める多くの抗議が寄せられているはずです。
 母子家庭の母親を何だと思っておられるのでしょうか。今の状況では女性の賃金が低すぎて、子どもと暮らすには不十分なため、児童扶養手当を受給し、なんとか暮らしを支えている母子家庭の現状・実情がまったく理解されていません。
 先進国の中でも日本の母子世帯の母親の就労率は一番高く、85%(平成15年全国母子世帯等調査)です。日本の母子世帯の母親は怠けているから低収入なのではなく、働いても収入が低いのです。2004年の国民生活基礎調査によると一般家庭の平均年収580万円に対して母子家庭の平均年収は約3分の1の225万円しかありません。この格差は年々広がっています。
 幼い子どもを抱えて就職することの困難さ。正社員として雇用されることもままならず、パートや派遣としての仕事を掛け持ちしている女性もたくさんいます。しかも、長時間働いても、収入は男性就労者より格段に低いのです。時間的にも経済的にも、就職に有利な資格を取る余裕すらないのが現状です。また、残業に追われる仕事につけば子どもとの時間がなくなってしまいます。子どもへの犯罪も増える中、見守る必要がありますし、何か起これば責められるのは母親です。一方、養育費を継続してもらっている人はわずか17.7%。児童扶養手当の受給者は生活保護世帯以下の収入の世帯が多いのです。多くの母子家庭は生活保護以下の収入で児童扶養手当を受けて自立しようと懸命にがんばっているのです。
 そのような中で、月々の児童扶養手当の子ども一人、全額支給で4万円というのは月収10数万円の母子家庭にとってはとても大きな額です。まさしく母子家庭が不幸に陥るのを救うセーフティーネットの役割を果たしています。今回の法改正で加重負担となった自治体の窓口審査が厳しくなり、母子家庭の母親を経済的、精神的に追い込んでしまうことにならないか。結果として母子家庭の子ども達への何らかの負担や被害が起こるのではないかととても心配です。

4,ナショナルミニマム、国の責任について

 児童扶養手当は法定受託事務です。自治体は国が定めた認定基準(全国一律の収入のみ)へ当てはめ、事実認定を行うのみです。給付も現金給付のみですから、全く裁量の余地はありません。にもかかわらず、地方の負担率を上げて給付抑制をさせようというのでしょうか。自治体の財政事情によって、窓口対応が変わってくるのでしょうか。
 1月21日の琉球新報によると、沖縄県の2005年の児童扶養手当の受給者は過去最多ペースで推移していて、受給率は全国平均の二倍と最も高くなっているようです。ちなみに二番目に高いのは北海道です。沖縄県母子寡婦福祉連合会事務局長は受給率の高さについて、「離婚率の高さ、県民所得の低さのほか、配偶者からのDVの多さも背景としてある。夫から逃げるために、養育費をもらわないという事例もある。男性の所得が少なく養育費を払ってもらえない場合も多い」と説明しています。負担率アップによる自治体の財政負担は深刻です。しかし、それで給付抑制が行われれば、暴力から逃れられなくなる女性や子ども達が確実に生まれ、地方差も含め、格差は一層拡大することになります。あるいは貧乏人はでて行けという自治体が現れ、生まれ育った町で暮らすことができなくなるのかもしれません。
 最低生活水準は自治体の財政力に係わらず保障されるべきものであり、生存に係わるナショナルミニマムの確保は憲法25条で定められた国の責任です。
 また、今回の改定では、児童扶養手当については国の負担率を4分の3から3分の1へと大幅に引き下げています。自治体の裁量権が全くない法定受託事務であるにもかかわらず、国庫負担がたったの3分の1というのも納得できるものではありません。
 さらに、すでに補助金の削減が行われている公立保育所運営費や就学援助などの現場では、サービス水準の引き下げやサービス対象の厳格化が行われています。

5,法改正のわかりにくさ

 今回の法案のタイトルは「国の補助金等の整理及び合理化等に伴う児童手当法等の一部を改正する法律案」というものです。そして、内容的には児童手当だけではなく児童扶養手当も含む三位一体改革による国庫負担の見直しなどに加え、児童手当の増額や基礎年金の国庫負担への加算も抱き合わせとなっています。国庫負担の見直しという共通点はありますが、法律改正の趣旨、目的は異なるものであり、大変わかりにくく、国民から国への不信感を招くことになるという点も指摘しておきます。
 また、児童手当については国庫負担割合を引き下げると同時に、対象・支給率を拡大する見直しも行っています。そして合わせて、別に児童手当制度の拡充に係わる地方特例交付金が創設され、実質的に財源保障がされることになります。
 しかし、児童扶養手当については財源保障も不明確なままです。そもそも、今回は、生活保護のとばっちりとして急遽持ち出されたもので、当事者の意見を聞くなど十分な議論、検討も行われていません。当事者にならなければ制度の意義もわかりにくく、その当事者は意見表明をする余裕もない日々に追われているというのが現状です。
 このような当事者不在の見直し、法改正がこのまますすめられてよいのでしょうか。

6,真の自立支援を

 この間、児童扶養手当制度は、母子家庭の自立促進・就労支援とセットで、大幅に改定されてきました。しかし、この3年間の就労支援はほとんど役に立っていないのが実態です。
 東京都の母子就業支援センターで職業紹介を受けても、なかなか就職に結びつかないようです。例えば、18件紹介を受けて、面接に結びついたのが3件、しかし面接には母子家庭の母以外もたくさんきていて面接結果は不可。非常勤であってもこのような事例もあります。
 私の住んでいる小金井市では今年度、母子家庭自立支援給付金として自立支援教育訓練給付金と、高等技能訓練促進費を創設しましたが、残念ながら受給者はゼロです。広報はそれなりにしているのに、相談さえほとんどありません。就労支援メニューのない自治体も多くあります。
 障害者自立支援法も同じですが自立支援といいながら、国庫負担の削減が目的となっているようなかで、本人にのみ努力を求めても限界は明らかだということです。
 そもそも、児童扶養手当は母子家庭の子どもたちの生活を保障するための制度です。 どのような家庭環境にあろうとも、子どもには何の責任もなく、社会には全ての子どもたちが平等に生きる権利を保障し育てる責務があります。少子化対策に躍起になる一方での、母子家庭に対する冷遇には、母子家庭の子どもたちを、社会の未来を担う一員として認めていないのではないかとさえ感じてしまいます。
 社会が男女同一賃金を実現し、幼い子どもを預けて働ける保育施設を充実し、資格を取ったり、勉強したりする時間や、体を休める休息の十分取れる労働環境を整備することができれば、母子家庭の母親も自立して生活することができます。 年金や税制などの社会システムを世帯単位から個人単位へと変えていくことで、性別や障害、家族構成に係わらず誰もが真に自立できる社会が実現できるのではないでしょうか。
 また、国として行うべき社会システムの変更やナショナルミニマムの保障と、自治体の創意工夫ですすめるべき事業を明確にし、直接市民と向き合う自治体の自主性・自立性が向上していくような地方分権の推進を強く求めて発言を終わります。