DV被害者である外国人女性への不当逮捕・拘留(=二次被害)を
二度と行わないこと、そして、Oさんへの謝罪を求めます    

2006年4月10日


1. 3月15日タイ人女性Oさんは、DVの被害者であるにもかかわらず入管法違反の容疑で小金井警察に令状逮捕されました。3月24日には身柄が東京入管局に移送され、この日のうちに仮放免されました。10日間の勾留を強いられたOさんの手首には手錠の跡が痛々しく残っていました。
 Oさんは「(取調べ中)手錠をかけられたままだった」「オーバーステイで調べられるのは分かるけど、何も悪いことをしていないのに犯罪者の扱いをされて辛かった」「10日間とても不安だった」と訴えました。
 その後も非常に脅えた状態が続いていますが、4月6日にOさんの夫に対してDV法の保護命令(被害者への接近禁止)が裁判所から発令されています。


2. Oさん(43歳)は、1993年10月に来日、日本人男性(55才)と1994年2月に結婚しました。長女(現在小5)誕生後、夫が繰り返し激しい暴力を振るうようになりました。2004年6月には、頭部を鉄パイプで何度も殴られ、救急車で病院に運ばれました。2005年5月にも頭部を負傷し小金井署に駆け込み、救急車で病院に運ばれて治療を受けました。あまりにもひどい負傷だったので警察にひきとめられ1泊しました。このときは娘のことが心配でいったん帰宅しました。
 この後も夫の激しい暴力が続いたため2005年6月13日に家を出て、公的機関に相談し、シェルターに保護されました。この時Oさんは全身が痣だらけで、特に後頭部は縫合され血や髪が絡まった状態であり、額も縫合した糸が付いたまま赤く腫れあがっていました。
 7月12日には小金井警察に出向いて夫の暴力についての被害届けを出しました。10月4日には小金井署の要望でもう一度警察に出向き、夫の暴力の被害状況を詳しく話しています。
 その後、Oさんは夫に対する離婚と子どもの親権の裁判に取り組んでいました。


3. Oさんは、すでに永住ビザを得る資格がありました。しかし夫に何度協力を依頼しても夫が手続を拒んだため、2005年5月に在留期限が切れオーバーステイの状態になってしまいました。
 このため8月1日シェルターのディレクターとタイ人通訳が同行し、自ら入管に出頭して、行政手続きを済ませました。そして長期に暴力被害を受けたための心身の後遺症の治療を続けながら、離婚裁判に取り組んできました。最近では暴力の影響から少しずつ回復して、外出もできるようになってきたところでした。
 警察は、この間の経過を充分知っていたのです。
 このような時、いきなり3月15日の朝、小金井署から4人の刑事がやってきて不法滞在の容疑での逮捕令状を示し、その日から10日間も勾留したのです。


4. 配偶者暴力防止法はその23条1項で「配偶者からの暴力に係わる被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者は、その職務を行なうに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない」とうたっています。
 また2004年12月の同法「施策に関する基本的な方針」では「(警察は)被害者の負担を軽減し、かつ二次被害が生じることのないよう….......相談者が相談しやすい環境の整備に努めることが必要である」 そして「(職務関係者は)被害者には日本在住の外国人(在留資格の有無を問わない)も当然含まれることに十分留意しつつ、それらの被害者の立場に配慮して職務を行なうことが必要である」と述べられています。
犯罪被害者等基本法においてはその3条で「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と明記されています。


5. 配偶者からの暴力(DV)には、身体的な暴力だけでなく、精神的暴力、経済的暴力、性的な暴力などが含まれます。これに加え一層弱い立場にある外国人女性に対する暴力として、日本人夫が在留資格の取得を阻んで日本に滞在できなくすること、「居られなくしてやる」「子どもに会えなくしてやる」等と脅迫することがしばしば起きています。
 この暴力の結果オーバーステイとなったとしても、DV被害者は配偶者暴力防止法や犯罪被害者基本法にもとづいて保護され、援助されるべきなのです。


6. Oさんのオーバーステイも夫の故意で発生した状態です。Oさんはその被害者であり、どんな責めも負う立場にありません。しかもOさんはすでに自分から入管に出頭し、行政手続きを開始しています。証拠隠滅や、逃亡のおそれ等、逮捕・勾留の必要性はまったく無かったのです。
 治療に当たってきた医師は「現在のOさんの状態は、勾留に耐えられる状態ではない」旨の診断書をただちに提出していました。こうして心身ともに傷ついたOさんを、本来は援助すべき警察がいきなり逮捕し10日間も留置するということは、まさに「二次被害」を警察が与えることであり、人道的にも許されるべきことではありません。しかも、彼女を保護しているシェルターにまで来て逮捕するなどということは絶対あってはならないことです。
 夫がOさんを告発したものと考えられます。しかし、殺人未遂と言いたいほどの暴行、傷害容疑のこの加害者に対しては、逮捕も勾留もされたとは聞いていません。
私たちは「警察は誰の味方なのか」と深い憤りを感じています。DV法、その基本方針、犯罪被害者基本法に反することを警察自らが行ったのです。


7. 私達は、次の3点について一刻も早い対応を要望いたします。

@ なぜこのような事態が引き起こされてしまったのか、とりわけOさんの逮捕・勾留にいたるまでの事実経過を調査し、その結果を明らかにすること。

A 今回の逮捕と勾留で二重に傷つけられ不安な状態にあるOさんに、きちんと「申し訳なかった」と謝罪していただきたい。Oさんがこれから離婚手続や生活再建に安心して臨めるように、警察自身の努力で「被害者は警察が守ってくれる」という信頼感の回復を図ってほしい。

B このような警察の対応は「二度と起こさない」と表明されることが早急に必要。そうでなければ、どれほどひどい暴力被害を受けても外国人女性が安心して交番や警察署に逃げ込んだり、相談することが不可能である。緊急に対応策を講じ、公表・周知すること。

 

日本キリスト教婦人矯風会  会長 佐竹 順子
女性の家HELP ディレクター   大津 恵子
矯風会ステップハウス  所長 東海林路得子
全国女性シェルターネット
移住労働者と連帯する全国ネットワーク
東京婦相会(全国婦人相談員連絡協議会)
和久田 修( 弁護士 Oさん代理人)
浅野 晋 ( HELP 顧問弁護士)
伊藤 和子( HELP 顧問弁護士)
山口 元一( HELP 顧問弁護士)
鈴木 隆文( HELP 顧問弁護士)

島尾恵理 日弁連両性の平等委員会 大阪弁護士会
川口和子 日弁連両性の平等委員会 第一東京弁護士会
芥川宏 日弁連両性の平等委員会 広島弁護士会
打越さく良 日弁連両性の平等委員会 第二東京弁護士会
吉田容子 日弁連両性の平等委員会 京都弁護士会
角田由紀子 日弁連両性の平等委員会 静岡県弁護士会
小川恭子 日弁連両性の平等委員会 滋賀弁護士会
菅沼友子 日弁連両性の平等委員会 第二東京弁護士会
養父知美 日弁連両性の平等委員会 大阪弁護士会
海老原夕美 日弁連両性の平等委員会 さいたま弁護士会
成見暁子 大阪弁護士会人権擁護委員会女性の権利部会
雪田樹理 日弁連両性の平等委員会 大阪弁護士会
越尾邦仁 大阪弁護士会人権擁護委員会女性の権利部会
本田正男 日弁連両性の平等委員会 横浜弁護士会
乗井弥生 大阪弁護士会人権擁護委員会女性の権利部会
石田法子 大阪弁護士会人権擁護委員会女性の権利部会
浅田登美子 第一東京弁護士会人権擁護委員会両性の平等部会
可児康則 日弁連両性の平等委員会 名古屋弁護士会
生駒亜紀子 第一東京弁護士会人権擁護委員会両性の平等部会
目々澤富子 日弁連両性の平等委員会 東京弁護士会
佐藤由紀子 日弁連両性の平等委員会 仙台弁護士会
安田まり子 日弁連両性の平等委員会 第一東京弁護士会